病院経営の課題や今後の対策|診療所との違いもご紹介します
病院を経営している人や今後経営を引き継ぐ人にとって、経営を成功させるために何が必要なのかが気になる人も多いことでしょう。そこで経営の課題とは何か、今後の対策としてどういったことを行えば良いのかについてご紹介します。
◼ 病院と診療所の違い
診療科目がたくさんある総合病院や地域に密着している小さな医療施設まで、多くの人は総称して「病院」と呼んでいます。しかし実際には医療施設は病院と診療所の二つに分けられます。入院できるベッドが20床以上ある医療施設のことを「病院」、それより少ないか入院設備のない施設のことを「診療所」といいます。ベッドの数だけではなく、病院には医師も最低3名以上は必要という決まりもあります。
・病院の特徴
病院の中にも、大規模なものと中小規模のものなど種類はさまざまです。大規模な病院の例としては国立病院や大学病院、企業による病院、地域に密着した中小規模の病院などがあります。難病や重症の人の治療、緊急搬送の対応など、高度な技術が必要な場合の医療行為が受けられる役割を担っています。
・診療所の特徴
地域に密着している「〇〇医院」や「〇〇クリニック」といった施設は診療所である場合がほとんどです。法律で「病院」という名称を付けることができないため、親しみやすい「医院」や「クリニック」といった言葉を使用しています。内科・外科・耳鼻科・眼科・産婦人科などの科目ごとに小さな施設に分かれています。
診療所の役割は、風邪などの軽い病気、怪我の治療が中心の「かかりつけ医」となります。患者様にとっては病院よりも医者との距離が近く、気になるところを相談しやすい特徴があります。
◼ 病院経営の課題
診療所よりも規模の大きい病院を経営していく上で、さまざまな問題にぶつかることもあるはずです。経営が上手くいっている病院では、より良くするため・維持するため、厳しい状況にある病院では改善するために、課題について知っておく必要があります。
・病院数が多い
以前と比べると病院数は減っていますが、日本では海外よりも人口に対する病院の数が多いという特徴があります。選択肢が多ければそれだけ患者様は分散していまいます。競争率が高い中で患者様に選ばれるためには、質の高い医療を提供、サービスの向上、コストの管理などが大切になっていきます。
・医療従事者の不足
日本では高齢化に伴って医師や看護師の数が必要とされている一方で、医療従事者の不足が問題となっています。小児科や産婦人科において医師が不足しており、長時間労働や勤務体系の不規則さが原因となっています。
大学の医学部を卒業して国家資格に合格すると医師になることができますが、その後で研修医として働くことになります。これまでは大学の医局から総合病院に派遣することで医師の数が維持されていましたが、民主主義に反していると問題視されるようになりました。2004年より新医師臨床研修制度の始まりによって医局は解体へ。
それまでは大学病院など決まった病院でしか研修することができませんでしたが、民間の病院でも行えるようになり、収入が少なく下働きの多い大学病院での研修が避けられるようになりました。医師不足にはこのような経緯があります。
医師だけではなく看護師も不足しており、患者様一人一人に対応できる時間が短く質の低下につながります。ただでさえ業務量が多い上に人手が不足すると、看護師一人当たりの業務量がさらに増えてしまいます。責任の重さや拘束時間の長さから離職する人が増えるという悪循環に陥っているのが現状です。
・病床の回転率が悪い
医療従事者の不足ともつながる問題ですが、中小規模の病院において病床の回転率が悪いという問題点があります。病床の回転率とは、一つの病床が一定期間内に何人の患者様によって利用されたかを表す指標です。
似た言葉に病床の利用率がありますが、これは病床が埋まっていれば100%となります。長期的に同じ人が入院していても、何人もの患者様が代わる代わる入院していたとしても利用率は同じです。
経営を支える上で大切なのは病床の回転率となるので、通院に変更できる患者様は退院してもらうといった対策をする必要があります。
◼ 今後の対策
病院の経営をしていく上で、病院数や医師不足、病床の回転率が課題となっていることをご紹介しました。それらを解決するための対策や経営を成功させるために今後やっていくべき対策についても知っておきましょう。
・地域との連携
病院が位置している地域によって、必要とされている医療サービスは異なります。地域に合った需要に対応していくことで経営基盤を強化させることができます。高齢化に伴って、医療や介護が住まいなどと一体で提供される「地域包括ケアシステム」が2025年に向けて構築され始めています。これにより住み慣れた地域でサポートを受けながら生活していくことが可能になります。
都市部と地方では状況や特性が異なるため、全国一律ではなく地域ごとに体制が整えられています。医療行為だけではなく、介護や福祉といった知識も身に付けた上で包括的なサポートを行えるような対策が必要となります。研修を行うなど大変な面もありますが、地域包括ケアシステムに関わっていくことで、地域からの信頼も得られることでしょう。
・コストの管理
病院の経営を進めていく上で、コストの管理は非常に大切です。まずは経営においてどれだけのコストがかかっているのか、現状を把握しておきましょう。項目ごとのコストの平均値は人件費が55%、医薬品などの診療材料費が20%、設備費が7%、委託費が6%、その他が10%となっています。コストを削減するためには、項目ごとの原因を探って改善していかなければなりません。
利益率に関わってくるのが、経費の50%を占める人件費。限界は57%といわれており、超えてしまうと経営バランスが崩れてしまうことを知っておく必要があります。人件費がかさみすぎると、設備費用など他の項目を削らなければならなくなり、医療の質や働く環境の低下につながってしまいます。
また新規の患者様を増やすために広告を設置している病院も少なくないでしょう。街中の看板の場合、掲げてから時間が経てば経つほど効果が薄れてしまいます。維持費だけがかかって、患者様の獲得にはつながっていないような場合もあります。看板での広告をやめたり、他の方法に変えたりと、宣伝方法を考えてみるのも良いかもしれません。
・人材のマネジメント
新しい患者様の獲得はもちろん、再度来院してくれる患者様を増やすことも大切です。初めて来院したときの第一印象で、病院の良し悪しが判断されることもあります。病院自体の
雰囲気や建物の好みもありますが、印象を左右する大きな要因となるのがスタッフです。受付や看護師の対応、スタッフの話しやすさや表情、身だしなみまで、患者様は瞬時に判断します。悪い印象を与えることのないように人材をマネジメントするのも重要な対策です。
人柄だけではなく、病院である以上は医療に関する質問や相談に真摯に向き合う姿勢や仕事の的確さなども当然求められています。仕事面と対応のどちらも強化することでリピーターを増やすことができるでしょう。
・高齢化に伴うニーズの変化
高齢化に伴って医療のニーズが変化し、新たに介護というニーズの増加が想定されます。「治す」という医療行為だけではなく、生活していく上で必要なことの「サポート」が重要になってきます。
また医療従事者だけでは介護関係の人手も不足しており、労働環境の改善や待遇の見直しといった対策を取る必要があります。労働時間が長かったり、給料が低かったりと待遇が悪ければその業界で働こうという人が減るのは当然です。これから更に増える高齢者を支えるためにも、人手不足を解消しなければなりません。
・患者様の視点を大切に
病院を選ぶ際にどのような点を患者様がチェックしているのか、病院でどのような対応が求められているのか、といった患者様の視点を大切にすることも忘れてはなりません。
患者様一人一人に寄り添った診療を行いたいという希望があったとしても、一人に時間をかけすぎては診療時間内に終わらなくなってしまいます。診られる患者様の数が減ればそれだけ利益が下がってしまいます。これらは必ずしも両立できるわけではないため、バランスを考えながら進めていく必要があります。
短い時間で患者様に納得してもらえる診療を行うためには、患者様の視点を大切にすることがポイントとなります。医師や看護師の対応、治療方法、病院内の清潔さ、利便性、雰囲気など、どのように改善したら患者様に気持ちよく通っていただけるかを考えてみると良いでしょう。
◼ まとめ
医療施設は規模やスタッフの数によって病院と診療所の二つに分けられ、病院は入院できるベッドが20床以上ある施設のことをいいます。大規模な病院や中小規模の病院などさまざまな種類がありますが、経営していく上で課題となることと今後の対策についてご紹介してきました。
日本では病院数が多い一方で医療従事者は不足しています。高齢化に伴って今後も病院には大きな役割がありますが、赤字が続いている病院が多いのも事実です。経営を成功させるためには地域との連携やコストの管理、人材マネジメントなどを総合的に改善していく必要があります。
岡田克哉建築設計事務所では、医院やクリニックの開業に向けた設計や管理を行っています。良い環境の中で質の高い医療を提供するためのお手伝いをすることをコンセプトとしており、建物の外観だけではなく使い勝手や過ごしやすさなどに考慮した空間づくりにも配慮しています。施主様と良きパートナーになれるような設計・管理を心掛けておりますので、医院やクリニックの開業を検討している方はぜひお気軽にご相談ください。