歯科医院に行く目的は、大きく分けて、治療と予防です。現代は、予防歯科が普及しているので、虫歯の治療よりも、検診や歯のお手入れという目的で来院される方も多いと思われます。
治療に訪れる方にとっては、気持ちの和らぐ雰囲気の待合室であれば、治療への不安も軽減されます。検診や歯のお手入れが目的で訪れる方にとっては、院内の内装、院内の全体的な雰囲気が、歯科医院選びに、大きな影響を与えます。なぜなら、今後、定期的に通う場所なので、雰囲気の良さを求めるからです。歯科医の技術は、治療を受けてみなければわかりませんが、歯科医院の外観デザインや、ドアを開けた瞬間に感じる雰囲気は、一目で好き嫌いがはっきりします。
定期検診や、歯のクリーニングを受ける歯科医院を探している場合、急を要するわけではないので、長年に渡って、気持ちよく通い続けられる歯科医院を探します。気持ちよく通い続けられる為には、歯科医の技術に加えて、歯科医院が癒しを感じられる空間であることも、大切です。そのうちの要素の一つが、外観デザインや内装なのです。
歯科医院の内装に求められる要素
歯科医院全体としては、清潔感や安心感が求められますが、受付、待合室、診療室には、それ以外に、それぞれ異なる要素が求められます。
■ 出入り口
医院内のプライバシーを守ることは大切ですが、同時に、通りを歩く人に対して、閉鎖的な印象を与えないこと、初めて訪れる人が、入りにくい雰囲気にならないことも大切です。待合室との位置関係や、玄関周りの植栽などとの兼ね合いを考え、ある程度、内部の雰囲気が感じ取れる出入り口が理想的です。
■ 受付
歯科医院を訪れた人が、一番初めに接する場所、歯科医院の顔とも言える場所です。誰にとっても、感じの良い印象でなくてはなりません。同時に、受付には、カルテ、パソコン、予約のためのスケジュール表、物販である歯科医療用品など、物が溢れる場所でもあります。その為、見せる収納と見せない収納を効率よく配置することが大切です。スタッフにとっては、カルテやスケジュール表の出し入れがしやすく、PCが使いやすい場所にあること、受付が立て込んでいても、動きやすいスペースが確保されていることが求められます。
受付の内側は、外側から見て、ごちゃごちゃした感じにならないよう、開け閉めしやすい隠す収納と、見せる収納を使い分けることが重要です。受付の外側は、カレンダーや、物販品のディスプレイなどが見やすく、すっきりした印象を受けるような配置にするため、見せる収納を活用します。
また、スタッフの視線は、受付内部から診察室内部に届かなくてはなりませんが、受付にいらっしゃる患者様の視線は、診察室に届かないことが必要です。
■ 待合室
歯科医院では、予約制であっても、時間通りには進まず、患者様をお待たせしてしまうことがあります。反対に、早めに来院する方もいらっしゃいます。その為、待合室は、居心地の良い空間であることが大切です。治療への不安が和らぐ場所、待ち時間が長くなってしまってもストレスを感じない場所にしなくてはなりません。
テナントでは、問題ありませんが、戸建ての医院では、温度調節に関する配慮も求められます。出入り口が自動の開き戸の場合、出入り口と待合室の位置関係によっては、冬は寒く、夏は暑い待合室になってしまう恐れがあるからです。空調の吹き出し口、出入り口を考慮して、ソファの配置ができるような内装にしておくことが大切です。
加えて、ソファの配置は、出入り口に向かないようにすることや、患者様同士が目のやり場に困らないような配慮も必要です。自然光を採り入れる、自然光が採り入れられない場所であれば、間接照明を使って、柔らかな光を演出するなど、明るさの作り方に工夫が必要です。
小児歯科では、子供たちが、歯医者さんに行くのが楽しみになるような雰囲気作りが必要ですし、大人が多い歯科医院では、落ち着いて過ごせる雰囲気作りが必要です。小児歯科の待合室には、段差や、お絵描きができる壁などを作っておくと、子供が楽しめる待合室が出来上がります。反対に、壁面に書棚を作り、寛いで読書ができる空間にする、花や観葉植物など、視覚的な癒しを得られるスペースを確保するなどの工夫で、大人が落ち着いて静かに過ごせる待合室が出来上がります。
■ 診察室
歯科医院の診察室は、プライバシーを確保できることと、心が落ち着く空間であることが求められます。その為、区切り方は、重要な課題です。プライバシーを守る為とは言っても、妊娠している人や、車いすを使っている人が、思うように移動できない、または、壁からの圧迫感を感じるというような区切り方は、望ましくありません。
ストレスなく移動できる広さがあり、圧迫感を感じないような作り方が求められます。面積的に狭くせざるを得ない場合には、天井を高くする、上部に窓をつけるなどの工夫が必要です。
また、視覚的に遮断するだけではなく、会話も遮れることが重要です。治療を受けている時に、パーテーションの向こうからの会話が筒抜けでなれば、患者様は、医師に質問にも答えにくくなってしまいます。
■ 洗面所とトイレ
洗面所とトイレは、受付に次いで、歯科医院の第二の顔とも言える場所です。内装を考える時、待合室や、診療室には様々な配慮をしますが、洗面所とトイレは、おろそかになりがちです。しかし、どんなに丁寧な治療を受けても、どんなに雰囲気の良い待合室であっても、洗面所とトイレがありきたりな場所だと、神経が行き届いていない印象を持たれてしまいます。清潔であることは当然ですが、加えて、洗練された雰囲気の内装にしておくことと、バリアフリーであることが理想的です。
スタッフにも患者様にも効率の良い動線
歯科医院内には、スタッフが働きやすい動線と、患者様が移動しやすい動線が必要です。その2つの動線は、部屋の配置によって、分離させることも、共用させることもできます。どちらかだけを優先させれば、スタッフにとっては、働きにくい職場になり、患者様にとっては、移動しにくい環境になってしまいます。
分離させる場合、スタッフと患者様の動線は、ぶつかり合いません。その為、医師もスタッフも作業がしやすくなります。患者様にとっても、出入り口→受付→待合室→診察室→待合室→受付→出入り口と、ストレスのない移動ができます。ただし、この動線を確保するためには、床面積に余裕が必要です。
共用させる場合は、床面積が倹約でき、その分でもう一つ個室を作ることもできます。ただし、スタッフも患者様も、動線がぶつかるので、多少のストレスが生まれる恐れはあります。
どちらの方法をとる場合にも、通路から、診察室の中が見えないようにすること、歩きやすい床材を使うこと、防音、遮音効果のある壁にすることが必要です。
居心地の良さを作るデザイン力
岡部克哉建築設計事務所は、ONLY ONEのCLINICを目指して、クリニックデザインをしています。それぞれの歯科医師の持つポテンシャルを最大限に引き出すデザイン力で、居心地よく診察が受けられる歯科医院、気持ちよく働ける歯科医院を作り上げます。
歯科医院の診察室は、プライバシーを確保できることと、心が落ち着く空間であることが求められます。その為、区切り方は、重要な課題です。
昼間は、植栽と深い庇で夏の強い陽ざしを遮り、北側のハイサイドライトで柔らかな光を採り入れて診療しやすい光環境が造られています。
夜は暖かな光が、周辺の環境に彩を与えています。
建物やクリニックをつくるということは人生最大のイベントのひとつです。決して不注意なミスは許されません。我々は常に、もし自分がこのクリニックをつくる施主だとしたらどうするか、常に施主様の立場を考えながら、設計や監理にあたっています。そうすることにより、よきパートナーとしてお施主様と二人三脚でクリニックをつくっていくことが出来ると思っています。
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