クリニックの設計監理とは?設計のポイントや失敗例も
クリニックを開業しようと検討している際、「設計監理」という言葉を耳にすることもあるかもしれません。クリニックの設計監理や設計士について、聞いたことがあっても詳しく知らない言葉の意味をご紹介します。またクリニックを設計する際のポイント、よくある失敗例を頭に入れた上で開業準備を進めるようにしましょう。
◼ クリニックの「設計監理」とは
クリニックの「設計監理」とは、「設計」と「監理」という2つの言葉から成り立っています。設計監理は建築士の資格を持っている人のみが行える業務であり、施工業者が図面通りに工事しているかどうか、手抜き工事していないかどうか、といったことを確認するのがその業務内容です。お客様との打ち合わせからプランの設計、設計図の作成、見積もりの作成、工程の確認、引き渡しの立ち合いなどを行う設計事務所が設計監理を行うのが一般的です。
・設計
建物を建てる際には設計図が必要ですが、家の設計を考えて図面に書き込むことを「設計」といいます。お客様のご要望を聞いた上で、実現できるようなプランを考えます。予算に合った材料を選ぶことや、法律に則っているかを確認することも重要です。要望と予算、法律など、さまざまな条件に合う家の形を考えて図面に起こすことが設計となります。
・監理
「監理」は設計と比べて聞き慣れない言葉かもしれませんが、設計した内容通り現場での作業が進んでいるかのチェックを行うことです。施工会社に設計図を渡しただけでは、図面の内容が正しく伝わるかどうかは分かりません。図面を見ただけでは伝わらないような内容を施工業者に伝えること、お客様の代わりに現場での打ち合わせを行うこと、現場での工事内容をお客様に伝えることが「監理」の業務となります。
・工事監理と工事管理の違い
工事監理は、ご紹介した通りお客様の代理人として工事現場の監督を行うような業務を行います。その一方で工事管理は、工事を行う施工業者の現場監督のことをいいます。工程の計画や職人の手配といった工程管理、材料の管理や安全管理など、実際に工事現場を動かす責任者のことです。工事管理者だけでは、図面通りに工事が行われているかどうかを設計事務所が確認することはできません。工事監理者はお客様の利益を守るために現場の工事管理者と衝突することもありますが、工事監理者の存在意義はそこにあります。
◼ 設計士とは
建築業界には、建築士や設計士など、一般の人にとっては明確な違いが分からない職業があります。クリニックを開業するときには「設計士」という言葉を耳にするかもしれませんが、聞き馴染みのある「建築士」とは何が違うのでしょうか。設計事務所と関わる機会が増える人にとって、知っておいて損はありませんので違いを理解しておきましょう。
・建築士
設計士よりも聞き馴染みがある建築士ですが、一級建築士や二級建築士、木造建築士の3種類がある国家資格です。資格ごとに設計できる建築物が異なりますが、業務内容としては設計図の作成や現場への指示などがあります。また設計監理の業務は設計士ではなく建築士が行うことになっています。
・設計士
国家資格である建築士に対して、設計士というのは資格を有する人のことではありません。建築士の資格がなく、設計の補助を行う人のことを設計士と呼ぶこともあります。そのため建築会社や設計事務所で働きながら建築士の資格を目指している人が「設計士」と自称することも。また建築士の資格を持っていなくても、100㎡未満の木造住宅であれば設計できることが建築士法で定められています。
◼ クリニック設計のポイント
クリニックを開業することが決まったら、設計を進めていかなければなりません。クリニックで働く医師や看護師、スタッフの動線ももちろん大切ですが、それ以外にもつい見落としてしまいがちなポイントがあります。クリニックを設計するときにチェックしておきたいポイントについてご紹介します。
・患者様の視点で考える
クリニックは医師や看護師、スタッフが働く場でもありますが、同時に患者様が訪れる場所でもあることを忘れてはなりません。患者様にとって医療の質はもちろんのこと、リラックスして治療を受けられる空間やスタッフのサービスも求められています。設計の段階でできることは空間づくりなので、患者様がどのような空間であればリラックスして過ごせるかを考える必要があります。
待合室や診療室の床や壁の色や照明の明るさといったデザイン面。心を落ち着けたいクリニックの壁の色があまりに派手であったり照明が明るすぎたりすると落ち着かない患者様もいるかもしれません。アイボリーやベージュ、淡い水色やピンクなどあたたかい印象を与える色の中から選ぶと良いでしょう。照明は眩しいと感じないような明るさにすると無難です。
・待合室やトイレ
患者様側でクリニックに行ったときに気になる人が多いポイントとして、待合室での他の患者様との距離があげられます。待合室が狭いと他の患者様との距離が近くなってしまうため、ある程度のスペースが必要です。人気のクリニックでは待合室で過ごす時間が長いため、テレビや雑誌、絵本といった待ち時間を快適に過ごすための案も考えておくようにしましょう。
待ち時間が長ければ患者様がトイレを利用されることも多々あります。クリニック内にトイレが一つしかないと患者様とスタッフが同じトイレを使用することになるため、混雑の原因にもなりかねません。清潔感が重要であるクリニックのトイレが汚れていると目につきやすいため、お手入れのしやすいトイレを選ぶと良いでしょう。
◼ クリニック設計での失敗例
クリニックを開業してからの想定をしていたとしても、設計の段階では想像しきれないことがたくさんあります。実際にあった失敗例を知っておくことで、より具体的に開業後の想像をしやすくなります。開業してから後悔することのないよう失敗例を頭に入れておくようにしましょう。
・収納スペースが足りない
カルテの収納が追いつかないという失敗例をよく耳にします。患者様が増えれば増えるほどカルテの数も増えていきます。最近は電子カルテの導入が進んでいますが、紙に印刷した状態で保管しているという場合はやはりカルテの収納棚が必要です。紙ベースでカルテを保管していなかったとしても、その他に紙ベースの書類はたくさんあるため、収納は多いと感じるほどあっても良いでしょう。収納が足りなかったために改装や増築を行う羽目になったという事例もあります。また開業する診療科目によっては薬剤をたくさん保管する場所が必要となることも。
・院長室が必要なかった
クリニックによっては院長室がある場合もありますよね。クリニックの規模や院長の性格によっては院長室が必要なかったと感じられるケースもあるようです。例えば院長以外のスタッフが全員女性という場合、院長は院長室で着替えなどを行い、その他のスタッフはスタッフルームで着替えるといったように使い分けをすることができます。しかしそうでなければ男性と女性でスタッフルームを分けることもあるはずなので、院長室が必ずしも必要ではない場合もあります。
・動線が悪い
患者様の視点で設計することの大切さをご紹介しましたが、それだけを重視しているとスタッフにとっての動線が悪くなってしまうことも。スタッフが業務を行うとき、患者様との接触が少なく済むような動線にすると業務がスムーズに進みます。患者様とのコミュニケーションは大切ですが、診察時間以外の時間に患者様に話しかけられることが多いと業務が止まってしまうことがあるためです。スタッフの業務が進まなければ患者様の回転が遅くなることにもつながるため意外と重要なポイントとなります。他にもスタッフ同士の会話を患者様に聞かれないため、バタバタしている様子を見せないため、といった意味もあります。
・立地が悪く患者様が増えない
クリニックの設計というよりは開業準備の段階の内容ですが、立地選びも失敗例としてよくあげられます。開業場所を選ぶ際には、エリアや人通りが重要ですが、立地が悪いと患者様が増えない原因となります。クリニックの開業は一生に一度の大きなことなので、開業場所選びで失敗しないように検討に検討を重ねて選ぶようにしましょう。立地選びなど、開業時のポイントについてはこちらの記事を参考にしてみてください。
・防音性が足りない
クリニックでは、受付と患者様のやり取り、待合室での会話、診療室での診察中のやり取りなど、さまざまなところで会話が繰り広げられます。クリニック内では診療が滞らないように静かに過ごすことがマナーですが、防音性が足りない設計だと会話が漏れてくることもあります。特に診療室での会話が待合室に聞こえてしまうと患者様は不快に感じてしまいます。診療室と待合室を隣り合わせにしない、防音シートを使用するなどの対策を行うようにしましょう。
◼ まとめ
クリニックを開業しようと検討しているとき、設計監理という言葉を耳にすることもあるかと思います。設計事務所が図面に起こした内容を現場に伝え、図面通りに工事が進んでいるかどうかを確認する業務を設計監理といいます。また具体的な違いが分かりにくい建築士と設計士の違いについてもご紹介しました。
岡部克哉建築設計事務所では、クリニック開業時の設計監理業務を行っています。施主様の要望を聞いた上で、スタッフが安心して働けることはもちろん、患者様が居心地よく過ごせるクリニックの環境づくりをお手伝いしています。クリニック開業をご検討の際は、岡部克哉建築設計事務所にお気軽にお問い合わせください。