クリニック設計の流れやポイント、注意点をご紹介
クリニックの開業を考えているお医者さんにとって準備しなければならないことはたくさんありますが、クリニックの設計も重要な工程の一つです。自分のクリニックということで理想を追求したいと思うお医者さんも多いかもしれませんが、患者様のための施設でもあることを忘れてはなりません。クリニック設計の流れとポイントをまとめますので、ぜひ参考にしてみてください。
◼ クリニック設計の流れ
クリニックを設計する際には、設計を依頼する業者を選ぶ必要があります。いくつかの業者に相談してみてから決める人がほとんどだと思いますが、ヒアリングから引き渡しまでの流れをご紹介します。
・ヒアリング
クリニックの開業を考えているエリアの近くや馴染みのあるエリアの中で気になる設計事務所などがあれば、まずは問い合わせをしてみましょう。設計事務所にいきなり問い合わせるのは勇気がいると思われるかもしれませんが、電話やメールでお気軽にお問い合わせください。簡単にお話をお伺いした上で、お会いできる日程を調整致します。実際にお会いできたところでヒアリングへと移ります。「こんなクリニックにしたい」「予算は〇〇円くらいが希望」など、必ずしも条件が決まっていなければいけないというわけではありません。決められるところだけを決めていただければ、設計事務所側が進めていきます。
クリニックを開業する土地が決まっている場合は、地番や測量図など土地の情報を持ってきていただけると助かります。設計事務所側としては、今後の流れや予算計画、プレゼンテーション費用などについてご説明いたします。
・調査
クリニックを開業する土地の現地調査を行います。法律や条例などの規制に関する調査なので、がけ地や変形地の場合はできるだけ同行できればと思います。その土地の良いところや気になるところなどを教えていただき、情報を共有する作業の一つとなります。設計が進んだ段階で、改めて法律に則っているかどうかを再度確認します。
・プレゼンテーション
プレゼンテーションでは、図面やCG、模型などを使って大まかな設計をご提案致します。あわせて工事のスケジュールや予算計画書、契約上重要なポイントなどをご説明します。プレゼンテーション案通りに建物が完成するわけではありませんが、感性が一致するかどうかなどをポイントとして契約するかどうかを決めていただければと思います。間取りはこのあとも何度も変更できるということを頭に入れて検討していただければ幸いです。
・契約
プレゼンテーションにご納得いただけたら、設計監理業務委託契約を結び、クリニック設計に関するパートナーとなります。設計監理業務委託書と重要事項説明書に記名・捺印いただいたら契約締結となります。
・地盤調査
建物を安全に設計するために、地盤の強さを確認する必要があります。簡易的な調査から本格的なボーリング調査まであり、測量にも地積測量・高低差測量・真北測量などの種類があります。施主様にはゴーサインを出していただければ、地盤調査と測量はこちらで進めさせていただきます。
・基本設計と概算見積もり
建物の間取りや外観、内装仕上げに使用する材料、手洗い場の位置など、細かい部分まで決めていきます。2週間に一度ペースの打ち合わせを5回前後行うのが一般的です。設計のポイントごとにメリットとデメリットを把握した上で、間取りを決めていただきます。
基本設計で決めた内容を施工会社に伝え、概算の見積もりを出してもらいます。概算の見積もりが、はじめの予算と比べて高いか安いかを確認してから設計を調整していきます。概算見積もりは最終的な見積もりよりも安く算出されることがあるため注意が必要です。施主様には、設計の内容に優先順位をつけて予算とのバランスを考えていただければと思います。
・実施設計と本見積もり
基本設計の内容をもとに、床や壁の仕上げ材の色味、家具の寸法、コンセントの位置などを決めていきます。見た目はもちろん使い勝手も大事なので、引き出しの深さといった細かい部分も相談しながら決めていきましょう。外構や看板との統一感も考えていきたいので、看板だけを目立たせるのではなく、外観との一体感で素敵なデザインにできればと思います。
たくさんの図面を製作して、施工会社に見積もりを出してもらいます。予算に合う見積もりになるように進めていくので、大幅にずれることはほとんどありません。もし概算の見積もりよりも大幅に高くなるようなことがあれば設計の変更にも対応しています。
・地鎮祭と施工
行政の手続きや申請などを行った上で工事の契約を結び、地鎮祭を行います。お清めと工事の安全を祈って地域の神社などにお願いをします。このときに敷地のうちどこに建物が位置するのかを確認していただきます。
いよいよ施工となりますが、まずは建物の下部分の基礎を施工してから建物の骨組みを作っていきます。時間があれば施主様にも月に一度、打ち合わせに参加いただいて建物の構造などを見ていただければと思います。
・引き渡し
建物が完成したら家具などを入れて、プロの写真家に撮影をしてもらいます。民間の審査機関や行政の検査を受けた上で、建具の動きなどを弊社でチェック。不具合がなければ施主様にも確認していただき、取り扱いの説明、建物の引受書に記名捺印をいただいたら引き渡しとなります。
◼ クリニック設計のポイント
クリニックはお医者さんや看護師さんなどスタッフの動線も大切ですが、同時に患者様からの視点も忘れてはなりません。せっかくこだわりのデザインでクリニックを開業しても、患者様からすると不便に感じられるような設計にしてしまってはもったいないですよね。そこでクリニック設計のポイントをご紹介します。
・待合室
クリニックによっては待ち時間が長い場合もあります。患者様にとって待ち時間の長さをストレスに感じられる人も多いことでしょう。そんな待ち時間を過ごす待合室をどのように設計するかによってストレスを軽減させられるかもしれません。車椅子が入れる幅を取るということはもちろん、外気の入り込みや自動ドアの種類などにも気を配る必要があります。
待ち時間を過ごす待合室が狭いと、他の患者様との距離の近さが気になるということもあるかもしれません。患者様がどれだけ来院されるかを予想して、椅子の数や配置を考える必要があります。ゆったりした気持ちで待ち時間を過ごしてもらえるように、ウォーターサーバーや血圧計といったサービスを提供している待合室もあります。
・トイレや洗面台
クリニックで患者様が意外と見ているのがトイレや洗面台などの水回りです。しっかり掃除されているかどうかはもちろんですが、車椅子のまま入れるかどうか、おむつ替えシートがあるかどうか、男女分かれているかどうか、などさまざまな項目でチェックされているといっても過言ではありません。すべての人に良いと思われるものを作るのは難しいですが、より多くの人に使いやすいと感じてもらえるような水回りにすることも大切です。
・アプローチ
クリニックの前の道路から入口までのアプローチには、スロープを設ける必要があります。道路と敷地の高低差によってスロープが長くなってしまう場合、駐車場や駐輪場のためのスぺースが取れなくなってしまうことも。他にも診療時間を表す看板や傘立て、なども必要なので、患者数が入りやすい且つ土地を有効活用できるようなアプローチのプランを考える必要があります。
・土足かスリッパか
クリニックによって、土足のまま入るタイプか靴を脱いでスリッパに履き替えるタイプに分かれます。土足のまま入るクリニックでは建築面ではすっきりとしますが、雨の日に水や土が入ってしまうことがあります。スリッパに履き替えるクリニックの場合、下駄箱があること自体が不潔だと思われる患者様もいらっしゃいます。また靴を履き替えるために入口に人が溜まってしまうことがあるため、ある程度のスぺースが必要になります。それぞれメリットとデメリットがあるため、どちらが合っているかを検討してみてください。
・キッズスペースの有無
診察の対象がお子様である場合やお子様連れの患者様の来院が想定される場合、キッズスペースがあると患者様にとって安心です。小児科にはキッズスペースがあることが多いですが、耳鼻科や産婦人科などにもキッズスペースがあると親切だといえるでしょう。
・診療室のデザイン
診療室はお医者さんが長い時間過ごす場所なので、診察業務はもちろん経営者としての仕事も同じ部屋で行えるような動線にしておきたいものです。患者様目線でいうと、プライバシーが確保されているかどうかが気になるポイントです。待合室や処置室などにいるときに診察室での会話が聞こえてくるようでは、プライバシーの面が心配になってしまいます。防音性にも気を配るようにしましょう。また電子カルテの普及によりカルテを受け渡しする必要がなくなってきていますが、受付と診察室でしっかりコミュニケーションを取ることも心がけましょう。
◼ まとめ
クリニックの設計は、ヒアリングから現地調査、プレゼンテーション、契約、地盤調査、設計、施工、引き渡しなど、たくさんの工程があります。設計事務所と施主様が密接なコミュニケーションを取りながら打ち合わせを進めていき、長い期間をかけてクリニックは完成します。クリニックを設計する上で、待合室や診察室、トイレ、アプローチなど、箇所ごとのポイントをご紹介しました。理想と現実の折り合いを付けなければならないところもありますが、出来る限り対応したいと思っていますので、クリニックの開業を検討されている場合は岡部克哉建築設計事務所にご相談ください。