新規開業を目指す場合、土地を購入し独自のクリニックを建てる方法、テナントで開業する方法の他に、継承開業という選択肢があります。継承開業は、高額な資金と、長い準備期間が必要とされるクリニック開業に比較すると、費用や準備期間を抑えられることや、患者様を引き継げるといった魅力があります。しかしその分、様々な問題点も抱えています。
継承開業について、様々な角度から考えていきましょう。
医院の継承開業とは?
患者様を抱え、診療を続けている医院の中には、高齢化や、個人的な事情のために、医院を閉めたいと考えている医師もいます。そのような医院を、新たに開業しようとしている医師が、引き継いで開業する方法が、継承開業です。
■ 継承開業のプラス面…開業準備
病院の建物や医療機器・設備を引き継げるので、新規開業ほどの莫大な資金が必要ありません。また、病院のスタッフや、患者様も、引継ぎされます。開業準備の中で、スタッフ集めには、非常な労力がかかりますが、その労力にかかる時間と費用も節約できます。また、開業して軌道に乗るまでの、集患がままならないような期間を避けられます。
■ 継承開業のプラス面…地域貢献
自分の親族の医院を受け継ぐケースは、昔から多くありましたが、最近は、それまで一切縁のなかった医師の病院を継承するケースが増えています。そのような継承開業が増えている背景には、医師の高齢化が進んでいるという社会問題があります。高齢のため、廃業する医師が増えてしまえば、地域に人々の生活環境に深刻な悪影響が出てしまいます。もし、新たに開業しようとしている医師が、継承すれば、地域への貢献になります。
新規開業との違い
継承開業と新規開業の違いについて確認しておきましょう。
開業準備の流れ…新規開業の場合
経営理念と診療方針を基に、自分の目指すクリニックの具体的なイメージを作り、開業の準備を始めます。
■ 土地選び…自分の目指す医院が、理想通りの医療を続けられる土地を探す
病院や調剤薬局が建てられる用途地域である、現在はもちろん、今後50年程度は、高い集患率が望める、競合医院が少ない、予算内に収まる土地の価格、患者様にとって利便性の良い位置にある、などの要素を満たす土地を探します。
■ 資金の準備
医院開業にかけられる資金の額を割り出し、具体的な資金調達を始めます。医院開業には、土地の購入費、建設費、設計・管理料、内装費、外構工事費など、病院建築にかかわる費用と、医療機器、事務機器、デスク、ソファなど、病院の備品にかかわる費用、広告宣伝費などの開業時の運手資金が必要です。
■ 病院建築…医療建築に関するリテラシーの高い建築設計事務所を探す
医院建築は、特殊な知識が必要です。自治体や、保健所の定める様々な基準を満たす必要もあります。また、医師の経営理念や医療方針によって作られているクリニックのイメージも、医師によって異なります。それぞれの医師の持つ医療方針や経営理念を理解した上で、医療施設建築に深い知識を持って、設計・監理をしなくてはなりません。
医院建築の実績が多く、自分の目指すクリニックのイメージに近いデザイン性を持った設計事務所や建築家を見つけることが大切です。
■ 医療機器の選定
必要だと思われる医療機器の中から、診療方針に沿っている、高い稼働率になることが予想される、外注より、院内でする方が、無駄を抑えられるなどの観点から、導入したい医療機器を決定します。
■ スタッフを集める
看護師や事務職員などの求人をし、雇用を決めます。自分の持つ診療方針と、理想のクリニックのイメージを、理解し、共鳴してくれる人材を見つけ出すことが大切です。
■ 地域の人々への周知活動
内覧や見学のための会を催す、クリニックの診療内容と診療方針、診療時間などをわかりやすく伝え、親しみを感じてもらえるようなチラシを配ったり、ウェブサイトに公開したりするなどの広報活動を行います。
■ 行政機関への手続き
自治体によって異なりますが、保健所、厚生局、消防署などへの手続きや、届け出の提出が必要です。医師会への入会も必須です。届け出が遅れると、予定の日に開業できなくなることもあるので、注意が必要です。
開業準備の流れ…継承開業の場合
新規開業で必要とされることは、ほとんど必要ありません。ただし、継承する医院の状況によって、継承開業するまでにしなくてはならないことが、変わってきます。
■ 継承する医院を探す
経営理念と診療方針を基に、自分の目指すクリニックの具体的なイメージを作り、開業の準備を始め、開業にかけられる資金の額と、調達方法を決めるという部分までは、新規開業と同じです。
次に、土地探しではなく、継承する医院を探します。この際に、注意したいポイントは、今現在、流行っている医院を選ぶことです。経営難に陥っている、地域に人々から信頼されていないというような状態の病院であれば、継承後の立て直しが大変です。
競合病院が近隣に少ないこと、交通の利便性なども、土地探しと同じように調査するべきです。また、あまりに老朽化した医院であれば、新築するのと同じくらいの費用が発生してしまう恐れがあります。
継承開業で注意しなくてはならない課題
資金面や、新規集患などでは、新規開業よりプラス面の多い継承開業ですが、開業後、滞りなく、理想の医療を進めていくためには、注意するべき課題があります。
■ 診療方針や経営理念に関するすり合わせ
継承後は任せるという方針である、または継承する側も継承させる側も診療方針や経営理念が一致している場合には、問題ありません。しかし、診療方針や経営理念も引き継いでほしいという場合には、十分な話し合いが必要です。
■ スタッフとの人間関係
慢性的な看護師不足の現状において、スタッフも引き継げるということは、継承開業の大きな魅力の一つです。引き継いだ患者様とも、馴染みがあり、地域の事情にも精通しているはずです。ただし、スタッフの中には、折り合いの悪い人材もいるかもしれません。病院経営にとって、スタッフが長年続いているということは、患者様に安心感を与えるので、とても重要です。引継ぎ時には、一人一人と丁寧な面談を行い、自分の経営理念と、診療方針を理解してもらうことが大切です。
■ 患者様との信頼関係
医師と患者の関係は、命にかかわる信頼関係です。特に、個人病院の患者様にとって、あの病院に行けば、常に同じ医師に、診てもらえるという安心感があります。ある日突然、医師が変われば、不安になるに違いありません。そのような状況にならないよう、継承される側の医師と、継承する側の医師が、交代することを、数か月かけて、患者様に丁寧に周知していく必要があります。できれば、ある程度、新旧の医師が同時に診察する期間を作るのも良い方法です。その期間に、スタッフとの信頼関係も築きあげられます。
■ 地域の医療機関との連携
クリニックだけでは、完璧な治療をできないような患者様を、他の医療機関と連携できるような体制を作っておく必要があります。もし、準備に時間がかけられるのであれば、半年でも1年でも、継承前に、継承予定の医院で働くという選択肢もあります。地域の医療機関との連携もでき、譲る側の医師の経営理念や、診療方針が理解でき、スタッフ、患者様とも、自然な交流ができます。
■ 理想の診療イメージに合った内装
継承する医院の築年数や、院内の状態にもよりますが、自分の理想の診療をするためには、内装の一新も効果的です。新規開業の場合、医師の診療方針に合わせて、医師とスタッフ、患者様それぞれが、最もストレスのない動線、患者様に与える空間のイメージを決めていきます。継承開業でも、適切なリフォームによって、理想の診療イメージに合わせた空間が造り上げられます。
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建物やクリニックをつくるということは人生最大のイベントのひとつです。決して不注意なミスは許されません。我々は常に、もし自分がこのクリニックをつくる施主だとしたらどうするか、常に施主様の立場を考えながら、設計や監理にあたっています。そうすることにより、よきパートナーとしてお施主様と二人三脚でクリニックをつくっていくことが出来ると思っています。
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