クリニックを新たに開業する場合には、自身の持つ経営理念を基に、診療コンセプトをまとめるという重要な作業と並行して、診療する場を作らなくてはなりません。クリニックを建てる地域、クリニックの規模、クリニックの形態などを、具体的に詰めていく作業です。
その場合の、クリニックの形態には、戸建てクリニックと住居併用クリニック、そしてテナントがあります。それぞれの形態が持つ側面について確認していきましょう。
クリニックの形態の種類
大きく分けると、戸建てとテナントが、クリニックの形態の種類です。戸建ての中には、戸建てクリニックまたは、住居併用クリニックを、個人の所有する敷地に建築するケースがあります。
テナントの中には、医療施設だけが入居する医療ビルの中のテナントと、様々な商業施設が入居している商業ビルの中のテナント、オフィスビルの中のテナントがあります。
戸建てクリニックと住居併用クリニック
自己の所有するに建てる戸建てクリニックには、通りから見える外観デザインから、内部に至るまで、すべて自分の理想を実現できるという大きな魅力があります。住居併用クリニックの場合には、通勤時間を倹約できるというメリットもあります。ただし、その分、解決しなくてはならない問題は、少なくありません。
■ 立地条件
駅から近い土地であれば、他駅からの患者様が見込めますが、駅から離れていると、近隣の患者様しか見込めません。幹線道路沿いであれば、ある程度離れた地域からの患者様が見込めますが、道路から見えない位置であれば、近隣の患者様しか見込めません。
ただし、駅の近くや、幹線道路沿いの土地の価格は高額です。自己所有の土地がある場合、その土地が、駅の近くや、幹線道路沿いではない場合も多いでしょう。
ここで、土地の選定に関して考えておきたいことは、主な診療の目的です。定期的に通う患者様を中心にした地域に密着した診療を目的にする場合、駅の近くや、幹線道路沿いの土地にこだわらなくても良いということです。なぜなら、定期的に通院する患者様にとっては、電車で通うより、徒歩や、自転車、マイカーで通いやすい地域が、通いやすいエリアだからです。
もう一つ考えておきたいことは、同じ診療科目のクリニックの有無です。特に住宅地内のクリニックには、昔からの患者様がついているので、新規開業しても、患者様の流入が見込めない恐れがあります。反対に、同じ診療科目であっても、得意とする専門分野が異なる場合もあります。その場合には、かえって地域の人々に求められるクリニックになれる可能性が高いです。目星をつけている土地の周辺に、同じ診療科目のクリニックがあった場合、その医院の診療方針に関する情報を集めることも大切です。
■ 土地にかかわる規制
購入した土地が農地だった場合には、宅地への地目変更が必要です。また、新築するクリニックの規模に合わせて、自治体が定める福祉のまちづくり条例の整備基準を確認しておかなくてはなりません。東京都の場合は、200㎡以上のクリニックに対して、車いすを使用する人や、妊産婦、高齢者が、安全に通行・移動するための規制が定められています。出入り口の幅や、エレベーター、階段の仕様など、細かくは自治体によって異なります。設計に大きくかかわることなので、確認しておくことが大切です。
■ 院内処方と院外処方
近くに調剤薬局がない、用途地域の制限があり、新規開局の予定がたたないというような場合には、院内に、調剤室を用意しなくてはなりません。数十年前までは、院内処方をする医院がほとんどでしたが、現在では、薬局での院外処方は主流です。その理由は、薬価が引き下げられ、医院の収入にならないということだけではありません。薬を保存し、処方するためのスペースを確保しなくてはなりません。それならば、そのスペースを活かして、診療室や、待合室を、できるだけ広くしたいと考えるドクターが多いからなのです。
しかし、院外処方は、患者様の側から考えてみれば、具合が悪くてクリニックに行き、やっと治療を受けられたのに、さらに薬局にもいかなくてはならないというシステムでもあります。それならば、あえて院内処方するという選択肢もあります。患者様には、あのクリニックは、診療後薬局に行かなくても済むという利点が生まれます。土地探しの際には、用地地域の制限がなく場合でも、処方薬についても、一考してみることが大切です。
■ 岡部克哉建築設計事務所の建築事例…戸建て住居併用クリニック
1Fが歯科医院、2Fが住居の戸建てクリニックです。
ON/OFFの切り替えが難しいと言われる事が多い住居併用クリニックですが、このクリニックは、あえて建物内部で医院と住居の行き来できないようにし、ON/OFFの切り替えを優先しました。
また、外部に家族のプライバシーが露出しないよう、テラスを中心に各居室を配置、テラスに向けて内部空間が開かれています。
テナントクリニック
テナントの中には、医療施設だけが入居する医療ビルの中のテナントと、様々な商業施設が入居している商業ビルの中のテナント、オフィスビルの中のテナントがあります。戸建てクリニックに比較すると、初期投資額や準備期間が少なくて済みます。
ただ、開業数年後に、患者の増加に合わせて、大掛かりな改築はできません。床面積が限られているので、内装を変える程度のリフォームが限界です。また、テナントの最大の弱みは、どんなに長年高い賃貸料を払い続けても、自分の所有物にはならないということです。
■ 医療ビルの中のテナント
他の医療施設に通う患者様からの認知度が上がり、必要な時には来院してもらえるという強みがあります。他の専門医との連携も図りやすいので、患者様からの信頼が高まるという面もあります。また、薬局があるので、院外処方の薬局を探す必要がありません。待合室やトイレ、洗面所を共有するタイプであれば、開業時にかかる資金も抑えられます。
ただし、それは反対に考えると、同じ医療ビル内に、評判の悪いクリニックが出現してしまったり、感染症が広がってしまったり場合、その医療ビル自体の評判が落ちてしまうこともあります。
■ 商業ビルの中のテナント
ありとあらゆる人が出入りするビルの中なので、絶えず新しい患者様の流入が望めます。ただし、入居している他の施設によっては、患者様に落ち着いた癒しのある雰囲気を、提供できない恐れもあります。戸建てクリニックや、医療ビルのクリニックは、通りから見える外観デザインも、自分の理想の診療に合わせた雰囲気を作り上げられますが、商業ビルの場合、内部に入るまでは、その雰囲気を作れません。その為、せめてゲームセンターやパチンコ店など、騒音が激しい店舗や、焼き肉店やファストフード店など臭いが強い店舗が入居しているビルは避ける、トイレや洗面所、エレベーターなどの共用部分が、常に清潔に保たれているビルを選ぶ、などの配慮が必要です。
■ 岡部克哉建築設計事務所の建築事例…テナントクリニック
テナントクリニックですが、通りから見える外観から、内部に至るまで、柔らかな優しさに溢れるイメージで、統一されています。居心地がよく、安心して矯正治療を受けられる空間です。
ガラス張りなので、通りから、クリニック内の雰囲気を感じ取れます。しかし、ガラスの厚さと、ガラスの張られたモンステラの葉のシールによって、患者様のプライバシーは、完全に守られています。
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建物やクリニックをつくるということは人生最大のイベントのひとつです。決して不注意なミスは許されません。我々は常に、もし自分がこのクリニックをつくる施主だとしたらどうするか、常に施主様の立場を考えながら、設計や監理にあたっています。そうすることにより、よきパートナーとしてお施主様と二人三脚でクリニックをつくっていくことが出来ると思っています。
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