個人医院(クリニック)開業のリアルな収支は?
勤務医としての収入や環境に不満や限界を感じて『経済的余裕を持つ』・『理想の医療を追求する』ために、医院(クリニック)の開業を考えたことはありませんか。開業医では、勤務医に比べて経営や資金繰りなどの管理負担が懸念され、医院(クリニック)開業に関する悩みで最も多いのが、この開業後の事業収支への不安です。つまり、『開業後にどれだけ医業収益(介護収益)が上がり、どれだけ支出を抑えれば経営が安定するのか?』というポイントが重要な疑問なのです。
▶そこで、気になる開業後の「収支」についてお話していきます。
厚生労働省中央社会保険医療協議会のデータ
新規開業医の方が直面する重要な課題にはまず、十分な開業資金の準備があげられます。それをクリアできたとしても、開業以降の収益はこれからの経営に大きく影響する問題です。借り入れをして開業している方であれば、特に毎月の融資返済金を支払う必要があるので、非常に気が重い課題でもあります。そもそも『経済的余裕を持つ』ために、医院(クリニック)を独立開業したにも関わらず、集患が叶わず勤務医時代よりも経済的に苦しい状況になれば元も子もありません。
開業後の収支を検討する際には、『厚生労働省中央社会保険医療協議会のデータ』に記載される、開業医の1ヵ月の収入および費用の参考データである『医療経済 実態調査』を確認するとよいでしょう。
この調査データは、病院・一般診療所・歯科診療所・保険薬局における医業経営などの実態を明らかにして、社会保険診療報酬に関する基礎資料の整備を目的に中央社会保険医療協議会が実施したものであると定義されています。そのため、開業後の収支状況が診療科目別に明かされており非常に役立ちます。
▶開業をお考えの方は、まず最初に見ておくべき資料です。
このデータを参考にして、診療科目別に収支状況を見てみましょう。そして、この目安収支をクリアすれば、医院(クリニック)経営のベースは、一般的なレベルに達していると考えてもよいでしょう。
個人医院(クリニック)の診療科目別収支
『医療経済 実態調査』では、個人医院(クリニック)と医療法人の双方の収支調査結果が公表されています。このデータを参考にして、大まかな収支を診療科目別にまとめたものがあります。
個人医院(クリニック)の場合は、収入・支出・最終利益のどれをとっても整形外科がトップの位置にあります。下記図表の『利益』項目から、医院オーナー(院長)の給与を算出する必要があるので、毎月の利益が129万円の外科に比べると、整形外科の開業医は、圧倒的に高額の300万円を超える給与を得られることが数字の上で可能となります。
項目名1 | 収入 | 支出 | 利益 |
---|---|---|---|
精神科 | 460万円 | 298万円 | 162万円 |
産婦人科 | 750万円 | 568万円 | 182万円 |
外科 | 620万円 | 491万円 | 129万円 |
小児科 | 452万円 | 318万円 | 134万円 |
皮膚科 | 610万円 | 388万円 | 222万円 |
内科 | 679万円 | 504万円 | 175万円 |
眼科 | 620万円 | 387万円 | 233万円 |
整形外科 | 1,100万円 | 759万円 | 341万円 |
耳鼻咽喉科 | 467万円 | 333万円 | 134万円 |
医療法人の診療科目別収支
個人医院(クリニック)よりも組織規模が大きいケースを見てみましょう。医療法人の場合は、個人医院(クリニック)の会計とは異なり、法人としての青色申告を行います。仮に法人に大きな利益が出た場合、納めなくてはいけない税金が高くなります。い
一部に赤字の診療科目がありますが、これらの理由は、経営難・節税対策の結果・一部の医療法人に莫大な赤字が出たため全体の平均値を大きく下げたデータ上の都合、なのかどうかまでは元のデータから伺うことができないので、確認の際には注意が必要です。
また、下記図表の『利益』は、医院オーナー(院長)の給与を既に差し引いた後の法人利益を算出しています。(※前項の個人医院(クリニック)は、医院オーナー(院長)の給与差し引き前の金額表記)医療法人によっては、家族を理事として位置付けることで節税対策を行っている場合も多く、その場合、理事である家族の給与も既に差し引いた後の『法人利益』が下記図表の『利益』となっています。
仮に、下記図表の赤字診療科目の赤字理由が、医院(クリニック)経営難によるものであれば、この赤字診療科目を専門とする医師の方は、個人開業するよりも勤務医でいる方が、はるかに経済面での余裕ができる可能性が伺えます。
項目名1 | 収入 | 支出 | 利益 |
---|---|---|---|
精神科 | 597万円 | 573万円 | 24万円 |
産婦人科 | 1,015万円 | 841万円 | 174万円 |
外科 | 1,196万円 | 1,262万円 | -66万円 |
小児科 | 762万円 | 849万円 | -87万円 |
皮膚科 | 871万円 | 765万円 | 106万円 |
内科 | 1,221万円 | 1,206万円 | 15万円 |
眼科 | 1,109万円 | 1,015万円 | 94万円 |
整形外科 | 978万円 | 938万円 | 40万円 |
耳鼻咽喉科 | 803万円 | 827万円 | -24万円 |
以上を踏まえて、理想の開業を進めるためは、診療報酬と収支の関係事例を参照して戦略をたてることが非常に重要だということです。医師の方々が、開業後のリアルな収支状況について、常にアンテナを張っているのも納得の理由だと言えるでしょう。